一言で説明するのはとても難しい。
現実の世界と、精神世界と言うか、観念の世界を行き来するし、簡単にいえば、幼少期に母親が失踪し、
父親に愛されなかった少年が15歳の誕生日に家出をし、そこから、広い世界を見ていくという感じだけど、
こんな風に書くと、全く面白くない。あの村上春樹の世界観を私が表現することなんて出来ない。
上下巻のこの小説の中から気に入ったフレーズを。
…「じゃあひとつ訊きたいんだけど、音楽には人を変えてしまう力ってのがあると思う?
つまり、あるときにある音楽を聴いて、おかげで自分の中にある何かが、がらっと大きく変わっちまう、
みたいな」大島さんはうなずいた。「もちろん」と彼は言った。「そういうことはあります。何かを経験し、
それによって僕らの中で何かが起こります。化学作用のようなものですね。
そしてそのあと僕らは自分自身を点検し、そこにあるすべての目盛りが一段階上にあがっていることを
知ります。自分の世界がひとまわり広がっていることに。僕にもそういう経験はあります。
たまにしかありませんが、たまにはあります。恋と同じです」…
こういう感性を持って生きるのはすごく生きやすいことだと思いました。
毎日同じことをしているように感じがちですが、実際には同じ毎日はありません。そう言われても、
やっぱり同じ毎日、退屈に思ってしまうのが人間。でも、同じ毎日でも、上記の言葉のように世界を見ていると
なんて、世界は広いのだろう。自分のいる場所でさえ、分からないこと、発見が多いことだろう。
幸せは目の前どころか、手のひら、頭の上のメガネのようにあって、気付いていないだけなのかもしれない。
気付いたときに、「すべての目盛りが一段階上にあがっている」ことを実感できるのかも。
と思った、フレーズでした。