2012年2月9日(木)13時開演の「白鳥の湖」。さすが東京といった感じで、平日の昼公演にもかかわらず会場は満員でした。
白鳥の湖ほど、有名でしかもヴァージョンの多いバレエも珍しいですが、今回のユーリー・グリゴローヴィチ版の白鳥の湖はその中でも、最高傑作と思うほどの素晴らしい振付、演出でした。バレエは、同じ演目であっても振付・演出や、バレエ団、ダンサーによって全く異なる魅力を放ちますが、今回の公演ほどそのことを魅せ付けられた舞台はありませんでした。
今回の演出は、王子の内的世界を中心に物語が進行していき、白鳥であるオデットに出会い惹かれ、そしてオディールに出会い惹かれだまされる有名なシーンも、通常だと王子がどこか滑稽で間が抜けた印象になるのですが、ユーリー版では、そこに行きつく葛藤や、愛や情感が、ドラマティックに演出され、クラシック的ではなく、ドラマティックバレエのような演劇性を色濃くし、しかもその中で、ダンサーの持つ表現力、技術力は大胆に表現され、「マイヤーリング」や「マノン」「オネーギン」を見たときのような深い感動の舞台でした。
ルンキナのオデットは、あまりに弱弱しく、芯のない雰囲気だったのですが、それもその後のオディールへとつづく伏線だったようで、情熱的で生命力にあふれた力強いオディールは圧巻!!繊細で儚げ、目を離した瞬間にふっと消えてしまいそうな薄幸のオデットの魅力、そして力強く、生命力にあふれエネルギッシュでカリスマ性とオーラに満ち溢れたオディールの美は、女性の持つ対極の美しさであり、二面性とも感じられます。
音楽の使い方や、オディール登場のシーンに黒鳥を引き連れる演出、どれをとっても今まで以上に納得の舞台構成で、ユーリー・グリゴローヴィチ版の白鳥の湖に出逢えたことに心から感謝する、最高の舞台でした!!!
2012年1月31日~2月9日まで東京文化会館で行われた、ボリショイバレエの日本公演。今回は、ボリショイの十八番とも言える「スパルタクス」そして、「ライモンダ」「白鳥の湖」が上演されました。
私はその中で、2月7日・2月8日の「ライモンダ」と、2月9日の「白鳥の湖」を見てきました。
「ライモンダ」は全幕で踊られる機会が少ない古典バレエの演目ということもあり、私自身はじめて観る作品なので特に楽しみだったのですが…。ある意味で言うと、なぜ全幕で踊られる機会が少ないのか納得という作品でした。
コール・ドも含め出演人数はかなり多く、舞台装置も大がかり、クラシックバレエらしい演劇性よりも踊りが中心の演目にもかかわらず、その肝心な踊りが何よりも地味…。リフトや個人の技を競うような回転があるわけでもなく、だからと言ってしみじみとした情感を感じさせるわけでもなく…。今回は2日間、鑑賞したのですが、出演者としては7日は主役にボリショイの看板ダンサーである「マリーヤ・アレクサンドロワ」に期待したのですが。なんと、プリンシパルにも関わらず、特に難しくないリフトで相手役の「ルスラン・スクヴォルツォフ」とタイミングがあわずにリフトに失敗。その後は、コール・ドに乱れがあったり、コール・ドの一人がヘッド・パーツを落としてしまったり…と、天下のボリショイとも思えない内容…。一度、舞台に対する集中が途切れると、その後はなかなか舞台に入り込むことが出来ず、腑に落ちない出来に私自身は茫然…。
そんな中、敵役であったサラセンの騎士のアブデラフマン役である「ミハイル・ロブーヒン」の音楽をつかむ演技には脱帽。体が音楽で出来ているようなそんなリズム感。着地の瞬間、ポーズの瞬間の間と、ボリショイ劇場管弦楽団の演奏がバッチリと決まっていく快感は初めての経験でした。
同じ演目を2回見ての感想は、演じ手によって作り出す世界観が全く違うということ。マリーヤ・アレクサンドロワの「ライモンダ」は失敗はありましたが、それでもボリショイのスターとしてのカリスマ性、オーラが素晴らしく。そして解釈としては、ライモンダの婚約者の騎士であるジャンと、ライモンダに激しく求婚するサラセンの騎士のアブデラフマンとの三角関係のような、二人のタイプの違う男性に惹かれながらも、最終的には婚約者に落ち着く…という印象を受けました。
翌日の、「マリーヤ・アラシュ」のライモンダはというと。同じくボリショイのプリンシパルではありますが、おそらく日本での人気は、前日のマリーヤ・アレクサンドロワのほうが高く、それでも、繊細で丁寧、派手ではないけれど、誠実で真面目な印象を受けました。その印象は、役柄の解釈の中にも表れていて、彼女のライモンダの場合は、サラセンの騎士に惹かれるようなそぶりは全くなく、完全なる拒否!婚約者が現れると、そこに助けを求めるような安心した表情を一瞬だけ浮かべた演技で、一人の男性をどんなことがあっても一途に愛する純真で生真面目なライモンダという世界観をはっきりとあらわしました。
私自身は、失敗もなく完成度の高い舞台であった8日の公演のほうが好きでしたが、やはりファンが多いからでしょう。7日の「マリーヤ・アレクサンドロワ」の出演の日の方が、拍手は大きかったように感じました。
パソコンの調子がおかしくなってしまい、1週間ブログの更新が止まってしまいましたが…。昨日やっと直りました☆☆そして、その昨日行ってきたのが「ウィリアム・モリス展」。ヴィクトリア朝のイギリスのデザインや家具、照明、本の装飾、テキスタイルが好きな方はぜひ行ってみてください。
この本の、ブルーの絶妙な色使いといい、装飾デザインといいとっても好きで、何度も戻ってきてはこの本をうっとりと眺めていました。全体的に照明を抑えた美術館の中、それぞれのお客様は、自分のペースでゆっくりと空間を味わうように静かな時間が流れていました。何度も戻ってきては眺めて、また違う作品を見て…といった感じで、他の展覧会よりも大人っぽい、優雅な見かたをするお客様が多いなという印象を受けました。
芸術の素晴らしいところは、何度見ても新たな発見があるということ。同じ日の、たった1時間前に見た作品の中にも、新たな発見がある、そしてその深みから新しいインスピレーションがわいてくるということ。最初に見た時には気付かなかったのに、二度目に見ると分かる作品のシミや色の絶妙な劣化。ただそれが、作品を損なっているのではなく、逆に深みを増している。民芸品として、自宅を彩る壁紙が1860年代から150年以上経て、変わっていくことは自然なことで、その変化を楽しめる空間でした。
このまま紅型に染めたものを見てみたいなと思った、室内用ファブリック。古くて新しい。モリスの世界観が、美術館の展示スペースを被い、その質感は、図録や作品集では感じることのできない、同じ時空間にいるという感動を味わうことが出来ました。
来週からは、「印象派の誕生展」があります。暑い夏、涼みがてら美術館というのも楽しいです。