台風前の土曜日に、タナガーグムイに行ってきました。タナガーとは、テナガエビのこと、グムイとは水のたまった場所という方言で、エビが棲息する川を意味するのだとか。北部をドライブしている途中で、なんとなく立ち寄った場所。車から降りると、下の方から「ゴー」という地鳴りのような音が。音に誘われながら、下へ下へと降りていく。スニーカーで、晴れの日が続く足場がしっかりした日だったから良かったけれど、結構な急斜面を10分ほど降りたところに突然姿を現す滝壺がこちら。
グムイというだけあって、水は流れる清流というよりは、深くたまって底の見えない深みがあり、水からは、少し泥の匂いがします。滝の落差は6メートルということで、普久川の中流に位置しているそうです。美しい場所ですが、川の水は海の水と違い、かなり水温が低いにもかかわらず、多くの若い方やアメリカ人の軍人さんが滝壺や、グムイで思い思いに遊んでいました。
自然に感謝して、少しおじゃまするくらいの気持ちで遊べば大丈夫だと思いますが、あまりにはしゃぎすぎてテンションが上がってしまい、溺れてしまったり転落してしまいここで命を落としてしまう方が毎年いるそうです。
人生と同じで、溺れたり転落するとなかなか這い上がるのが難しい。ここは、タナガーグムイの植物群落といって原生林のイタジイが鬱蒼と茂る場所です。またヒメユズリハ、イスノキ、イジュ、クロバイ、ヤマモモなど独特の植生が見られることから、国の天然記念物に指定されている場所です。
そういう清浄な場所なのですが、心無い利用の仕方をするために、やはりどこかで少し気味が悪い感じがします。水の淀みの中の黒さがまるで、異界と繋がっているようにも感じがしたり…。
流れる水からは、良い気が感じられるのですが、グムイ(淀み)からはやはり古事記などでも黄泉の世界とかそういう象徴になるように、どこかにひっぱられそうな、強いエネルギーがあるように感じる場所です。
本当は泳ぐような場所ではないのだと思います。今年は沖縄では台風が多く、5月には風台風により数時間で木々が壊滅的に枯れ、今回の8月の台風では40時間以上も暴風域に入り…。自然はあるがままにいるだけだと思います。それが時には人にとって都合が悪かったというだけで、攻撃しているわけでも恨んでいるわけでもない。
もともと人は「畏怖の念」から神々を信じ、世界を構築してきたと聞きます。人はあまりにも見た目では豊かになって、自分を取り囲む優しさや、強さ、畏れや様々な見えないけれど確かに存在するものをあまりにもないがしろにしてきたのかもしれません。
日本は古来より自然の猛威、氾濫や洪水、地震などと共存してきました。古事記にでてくる「八岐大蛇」の話も、蛇の悪神として描かれるヤマタノオロチは、実は洪水を意味しているといいます。
水のそばで、植物と川の水しぶき、流れる水の強さと清い冷たさを感じながら、様々なことに思いをはせた台風前のやんばるでのひと時でした。