沖縄ウェディング プロデュース 「Love Baile(ラブバイレ)」

過去の公演から 5 マニュエル・ルグリの新しき世界(Bプロ)

2010.11.10

ルグリのサイン入りポストカード

 2010年2月6日に行われた、マニュエル・ルグリの新しき世界(Bプロ)「ルグリと輝ける世界のスターたち」。そのメインプログラムは、なんといっても互いが生きる伝説といわれ、40代というバレエダンサーとしては年齢を重ねているマニュエル・ルグリとシルヴィ・ギエムの15年ぶりの共演である。しかもこの公演は、世界を巡業するものではなく、日本の東京のみで行われるとあって、チケットが早い段階でソールド・アウトしたのも頷ける。

 マニュエル・ルグリは、1980年15歳でパリ・オペラ座バレエに入団してからほぼ29年、その秋に45歳になるという2009年5月に同団を退団しました。近年のパリ・オペラ座バレエのエトワールの中でも、グラン・エトワールと称された比類なきトップ・ダンサー。同バレエ団の同僚ダンサーを率いて日本において1996年より6回にわたって行われた「ルグリと輝ける仲間たち」は退団より一足早く2007年にシリーズを終了しています。(沖縄に来たのもこの公演です。)

 ルグリ退団後の記念すべき新しい公演は、ルグリのために振りつけられた作品、世界初演の「ホワイト・シャドウ」とともに、15年ぶりとなるギエムとの共演で日本のみならず世界のファンを熱狂させたことと思います。演目は、二人のうちのどちらかのレパートリーではあるが、もう一人は踊ったことがないパ・ド・ドウが二つ。

シルヴィ・ギエム

 1980年代の終わりに世界のバレエ・シーンに登場した彼らは、組んで踊ればだれよりも強くまばゆい輝きを放つ、無敵のスター・カップル。80年代の二人を私は知りません。多くのファンが、この二人の踊りを見ることはもう叶わないかもしれないと思っていた時の、夢の共演。

 演目は、「優しい嘘」と「三人姉妹」

 「優しい嘘」は、イリ・キリアンの振付で、この小品はキリアンが初めてパリ・オペラ座バレエ団のために創作したもの。1999年に初演された二組のカップルのための作品。初演キャストは、デルフィーヌ・ムッサン―ニコラ・ル・リッシュ、ファニー・ガイタ-マニュエル・ルグリ。オルフェウスとエウリディーチェの神話に想を得た振付。ジェルアルドとモンテヴェルディ作曲のマドリガルやグレゴリオ聖歌が使われ、舞台奈落を行き来するダンサーの一群やコーラスの姿をリアルタイムで中継した画像が舞台上に映しだされ、メインのダンサーが奈落から舞台にせり上がると実際の光景が映像にとって代わるという演出がなされた。

 「三人姉妹」はケネス・マクミラン振付、チャイコフスキー作曲のドラマティック・バレエ。「モスクワへ行けたら」と片田舎での退屈な暮らしに閉そく感を抱く人妻マーシャとその姉妹たちは、モスクワへ行くことを切望している。しかしその理想は憂鬱な現実を前にして、まるで冬の夢のようにはかなくついえてしまう。原作は、日常に潜む人間の悲劇を静かな筆致で描いたチェーホフの傑作戯曲。心理バレエの巨匠マクミランはこの題材をもとに、メランコリックで抒情的な作品を作り上げた。厳しい現実から逃れるように、道ならぬ恋にひとときの炎を燃やすマーシャとヴェルシーニンの激しいパ・ド・ドウ。

シルヴィ・ギエムの三人姉妹

 このBプロでルグリとギエムの出ている時間は、約20分~30分くらいだったと思います。ほかの1時間半は別のダンサーのパ・ド・ドウです。アニエス・ステステュ、オレリー・ジュポンはパリ・オペラ座バレエのエトワール、シュツットガルド・バレエのプリンシパルであるフリーデマン・フォーゲル、東京バレエ団の上野水香などそうそうたる顔ぶれです。

 でも、あまりにも強烈な二人のカリスマ性に、正直ほかの演目は記憶に残っていません。ルグリもギエムも、ソロはもちろん、ほかのダンサーとのパートナー・シップでもすごい強烈な輝きを発するのが、一緒に踊る。そのエネルギーの並々ならぬぶつかり合いは、寒い中会場に足を運んだすべての観客を燃え上がらせ、私は終わった後もしばらく席を立つことが出来ませんでした。この二人のパ・ド・ドウを次に見る機会があるのかもわからない、これが最後かもしれないというのも、本当に貴重な体験でした。今以上に、何年後、何十年後かに、素晴らしい時代のタイミングに遭遇出来たと、その幸運を感じることと思います。

 コンテンポラリーである優しい嘘、全幕物のパ・ド・ドウ部分を抜粋した三人姉妹。ガラ公演は、全幕もののように装置も、オケもなく、派手さはありませんが、ルグリとギエムの踊りはそんなもの関係ない、バレエとは肉体と精神で出来た芸術だというのを実感しました。二人以外に何もなくても、すべてがある。欲をいうなら、二人の全幕物を見る機会に奇跡的にめぐり逢えたらと思います。ギエムは40を過ぎて、女性ダンサーとしてはそろそろ第一線を何時退いてもおかしくない時にきています。彼女自身、バレエのみならず様々な身体表現にチャレンジしたいと、今までとは違う新たなジャンルで、次なる輝きを放ち、クラシックは今では封印したとインタビューでも応えています。

 ルグリとギエム。この二人のプロとしての本物の生きざま、決して妥協せず、芸術を追求していく高貴な精神性をこの舞台で実感しました。

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過去の公演から 4 マニュエル・ルグリの新しき世界(Aプロ)

2010.11.09

マニュエル・ルグリの新しき世界公演カタログより

 2010年の2月にゆうぽうとホールで行われたバレエ公演「マニュエル・ルグリの新しき世界」。そのAプロ「ルグリ×バナ×東京バレエ団 スーパーコラボレーション」とBプロ「ルグリと輝ける世界のスターたち」を見てきました。マニュエル・ルグリは前回のブログでも紹介したように、私が3年前に沖縄に招聘したバレエダンサー。そのカリスマ性と他を圧倒する存在感、技術力、演技力は、生きる伝説といわれ、同じ時代を生きることが出来ることをバレエファンはみんな最高の幸運と思っているような人です。

 その世界的男性バレエダンサーであるマニュエル・ルグリの世界初演の演目がAプロにて2月4日(木)に上演され、マニュエル・ルグリとパリ・オペラ座バレエ団時代に至極のパートナーシップで一時代を築いたこちらもバレエ界始まって以来のダンサーといわれるシルヴィ・ギエムとの共演が話題となった演目がBプロにて2月6日(土)に行われました。

マニュエル・ルグリのソロ

 Aプロでは、マニュエル・ルグリのソロである「ザ・ピクチャー・オブ…」が上演。

 パトリック・ド・バナによってマニュエル・ルグリのために振りつけられ2008年東京で初演された演目。鯨の鳴き声に始まり、パーセルのオペラ「ディドとエアネス」より終幕のアリア「私が地に横たわるとき」にのせて、重厚で静謐な空間を描き出す。パリ・オペラ座を退団し、新たな一歩を踏み出したマニュエル・ルグリ自身のポートレートともいうべき作品。第12回世界バレエフェスでもマニュエル・ルグリによって踊られた東京に縁の深い作品です。

 「光と影の肖像、時と空間の美しさの肖像、やってくるものの肖像、去りゆくものの肖像、そして……自分自身の肖像!」(「ザ・ピクチャー・オブ…」プログラム・ノートより)

 舞台セットも何もない、ただ一人人間の肉体と精神の限界までを使った踊りは、踊りを超えた彼自身のストイックなまでの生きざまを感じさせてくれました。頂点にのぼりつめ、そこに君臨し続けるには、並みの努力ではない、そしてそれを努力とも思っていないその精神こそが天才たるゆえんなのかもしれない。全身から発するエネルギーが会場中を包み、全幕ものの公演とは違う、ガラ・コンだからこその世界観がそこにはあります。コンテンポラリー・バレエ特有の抽象的な世界はそこにいるダンサーの本質が伝わり、マニュエル・ルグリのすごさがその5分の演目からひしひしと伝わってきました。

ホワイト・シャドウリハーサル風景。パトリック・ド・バナと一緒に

 そして、休憩をはさんで、今回のプログラムの目玉である世界初演の「ホワイト・シャドウ」。新進気鋭の振付家であるパトリック・ド・バナとともに、東京バレエ団とのスーパーコラボが実現。北アフリカ、アジア、ヨーロッパの音楽を融合させ、フランス映画界で活躍するアルマン・アマーによる多彩な音色に乗せて、力強さの中の調和、宇宙や精神性といった目に見えないものを視覚化する。「エネルギーが重要なテーマ」と振付家のパトリック・ド・バナは言っています。

 「永遠と調和、そして平和に到達するために、我々は生と死を何度も繰り返す。生と死は永遠(時の果てまで)に互いを追い続ける。組立てる……分解するために。構築する……破壊のために。     

生きるために人は自分の内面へ深く、細く、長い道をたどっていかなければならない。道しるべ(MAKHTUB)を頼りに空を見えげ、世界を見渡し、宇宙を探索する。

そして、永遠、調和、平和に到達したとき、我々が見つめているのは……ホワイト・シャドウ(白い影)にほかならない 」(「ホワイト・シャドウ」プログラム・ノートより)

 どのような作品なのか、情報がない中であけた幕。その世界観は哲学的でありながら、圧倒的な技術力で舞うダンサーたち。マニュエル・ルグリ、パトリック・ド・バナは言うまでもありませんが、東京バレエ団の日本人ダンサーたちのレベルの高さは想像以上のもの。もともとクラシックはもとより、コンテンポラリーにおいても世界的に高い評価を得ている東京バレエ団ではありますが、それにしても世界NO.1のダンサーであるマニュエル・ルグリと対等に渡り合う存在感は圧倒的。日本人特有のコール・ドの細やかさ、調和のとれた一糸乱れぬ動きは、今回の演目の中でも見ごたえ十分でした。技術力の高さからくる舞台の完成度がとにかく素晴らしく、それに精神性の深い世界が見事に融合され、見ごたえのあるコンテンポラリーの公演でした。クラシックのように、物語性がない分、コンテンポラリーは踊るダンサーによっては、独りよがりになったり、何も伝えられないということもあります。マニュエル・ルグリを支える技術力のさらに深淵にある彼自身の世界観、カリスマ性がいかんなく発揮された公演でした。

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過去の公演から 3 パリ・オペラ座バレエ「シンデレラ」

2010.11.08

パリ・オペラ座ガルニエ宮におけるグラン・デフィレ

 パリ・オペラ座バレエ団は世界一思い出のあるバレエ団です。それは、2007年8月に行われた沖縄タイムス社主催で、オペラ座の伝説のエトワールであるマニュエル・ルグリの「ルグリと輝ける仲間たち」というバレエ公演を私が企画制作したからです。沖縄では破格のチケット料金17000円という、高額の公演のチケットを販売するのがとても苦労しましたが、おそらく今後このような芸術性、技術、美しさの面で秀でたメンバーをよべることもないだろうというくらいの最高の舞台となり、スタンディング・オベーションの嵐だった本当に思い出深いバレエ団です。

 そのバレエ団が、2010年3月に3年ぶりの引っ越し公演を行ったのが、この「シンデレラ」と「ジぜル」という演目。私は、初となる「シンデレラ」を2010年3月15日東京文化会館に見に行きました。

世界で一番美しいマチュー・ガニオ

 この日の主役は、私が大好きな男性ダンサーの「マチュー・ガニオ」。女性のバレエダンサーで華があり、舞台を震わすスターはたくさんいますが、男性では多くはありません。その中で、マチュー・ガニオの演技、表現力、美しさ、気品は女性を超えるものがあり、彼が舞台に登場するだけで、舞台の空気を一瞬のうちに変えてしまいます。

 同舞台は、プロコフィエフの音楽で、ルドルフ・ヌレエフの振付です。童話の「シンデレラ」とは違い、1930年代世界恐慌後のハリウッドを舞台としています。王子は映画スター、お妃になりたい女性たちは映画で役を取りたい女優の卵たちと設定を変えています。そして、シンデレラは魔法使いならぬプロデューサーに見事に美しく変身させられて、映画の撮影スタジオに入り、そこで映画スターと撮影をし、恋に落ちます。でも12時の鐘が…。その時に落していった靴を使ってシンデレラを見つけるところは童話のままの演出となっています。

 舞台装置のゴージャスさ、パリ・オペラ座のコール・ドでさえ普通のバレエ団なら主役に見まごうダンサー一人ひとりのレベルの高さ、そして主役の映画スターであるマチュー・ガニオの華、舞台が震えるほどの感動。とにかくどれをとっても超一流の舞台でした。

映画スターとシンデレラのパ・ド・ドゥ

 生で同じ空間だからこそ味わえる贅沢な感動があります。同じバレエ団が同じ演目を踊っても、今日と明日の舞台はやはり違います。同じ人が同じようにやっているつもりでも、その日の空気感、醸し出す雰囲気で今日の感動は、今日のものでしかありません。DVDなどには残せない種類の感動です。舞台は、主役の踊りとともに、その背後にいるダンサー、マイムをやる演技、オーケストラによる生の音楽、照明や舞台装置など、様々なことが相乗効果で折り重なって生まれる総合芸術です。なので、テレビなどでのバレエの放送は、どうしても主役の二人をメインに映すので(しかも二人の顔のアップなどで)、主役の手の動き、足の動きさえも見えず、演目によっては(マノンやうたかたの恋のような官能シーンがあるときは特に)映像では生々しくあまりにもリアルすぎる切り取られ方をすることがあります。そういうときには、特に舞台はやはり生モノで、冷凍保存すると本質が損なわれるのだなと感じることがあります。

 今回のシンデレラは、衣裳も日本人デザイナー森英恵による、スタイリッシュで豪華なもので、何をとっても超一流な最高の舞台でした。他のバレエ団では、童話と同じ内容で演出をしているところもあります。2011年1月に来日するベルリン国立バレエ団は童話と同じ内容での「シンデレラ」を上演するので、それも見に行けたらいいなと思います。

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