2012年6月1日・2日に東京文化会館にて行われたジョン・クランコ振付のシュツットガルトバレエ団「じゃじゃ馬馴らし」。日本では10年ぶりの再演ということ。私は初めて鑑賞しました。
初日1日は、スー・ジン・カン&フィリップ・バランキエヴィッチの黄金コンビ。シュツットガルトバレエ団では、踊る演目によってパートナーシップがおおよそのところ決まっており、「じゃじゃ馬馴らし」では、この二人は常にパートナーで踊っているということもあって、息の合い方が半端ではありません。
「じゃじゃ馬馴らし」は、ウィリアム・シェイクスピア原作の喜劇を、天才振付家ジョン・クランコがあの流れるようなセリフを、パントマイムとバレエだけの肉体表現で振り付けた傑作バレエ。初日のスー・ジン・カン&フィリップ・バランキエヴィッチは、特に、どこまでがマイムで、どこからが踊りか分からないほどの、名役者!!無声映画を見ているような、バレエという世界を超越した芸術性と、二人にしか醸し出せない一種独特の世界観が印象的でした。
変わって2日昼の公演は、アリシア・アマトリアン&アレクサンダー・ジョーンズの若手のペア。この二人は前日のスー・ジン・カン&フィリップ・バランキエヴィッチとはまた違う世界を作り出します。1日の二人が演劇的であったのに対して、アリシア・アマトリアン&アレクサンダー・ジョーンズのペアは、このシェイクスピアの世界をどこまでもバレエ的に表現します。まるで無重力のような肉体を感じさせないリフト、ヒロインのキャタリーナの疾風怒濤の性格設定も、どこか優雅で美しい。何よりもバレエの見せ場見せ場を超絶技巧で、圧倒的スケールで踊りきる二人の身体能力の高さと抜きんでた美しさは、シュツットガルトバレエ団の層の厚さを感じさせます。
コール・ドも含めて、シュツットガルトバレエ団でなければ到底創り出せない空気感を持った舞台となり、同じ演目を2度見たのですが、ダンサーによってこうも舞台の生み出す空間が変わるということに両日ともに感動、感激の舞台でした。
「じゃじゃ馬馴らし」のあらすじは、どこまでも強情張りの主人公キャタリーナに、求婚者のベトルーチオが、彼女の強情をあの手この手で挫き、最後にはお互いがお互いを認め合って素直になり、誰よりも幸福なお似合いの夫婦になるというもの。シェイクスピアの饒舌なセリフを多彩なアクション、マイム、コンビネーションに置き換えたパ・ド・ドゥで、ロンドン時代にはオペラやミュージカル、レビューの演出も手がけたジョン・クランコが、その演劇的手腕を総動員して創作した最高傑作とも言われています。
そして、この話は現代女性にもどこか通じるものがあるとも…。どうしても大切な人に素直になれなくて、つい意地を張ってしまって…、見た目が可愛らしくて可憐で男心をくすぐる女性(この話の中では、妹のビアンカがそういうキャラクター設定になっています)に嫉妬するも、自分ではどうしてもそんな振る舞いは出来ないし…。そんな中で、自分の意地っ張りでじゃじゃ馬な部分を全てひっくり返してくれる無頼漢ながらも、豪放豪奢な男性が現れて、始めて素直になる喜びを体感できる!!
素直こそが人生を幸せに喜びに満ち溢れたものに変えてくれるもの☆そして、一見じゃじゃ馬に見える強気で豪快な女性が実は知的で心が優しく、守ってあげたくなるような女性が実はしたたかで計算高いということもありうるよ!女性が必ずしも見た目と同じとは限らない、言いかえれば本を装丁で選んではいけないというシェイクスピアらしい洒落のきいた、他ではなかなか見ることの出来ないバレエでした☆