2010年6月25日(金)19時開演、青山劇場で行われた、マシュー・ボーン「白鳥の湖」を見てきました。この演目は、男だけの白鳥の湖という、キャッチコピーで、日本での初演は、5年前の2005年。その時は、男だけという響きに、おちゃらけたバレエなのかなとの先入観を持ってしまい、見ませんでした。
今回、新しくできた青山劇場も見てみたいというのもあって、会場に足を運びました。千秋楽の前日と言うことで、客席はもちろん満員。どんな作品になるのか、あまり期待せずに見ていたというのが第一印象です。
でも!!舞台が始まると、そこは今まで知らなかった白鳥の湖の世界。物語の背景は、60年代初期の英国と思われる国。少年の時から夜な夜な夢に白鳥がでてきていた王子は、成長してからも、母親である女王の愛を注いでもらえず、孤独な日々を送る。そして、あるスキャンダルの罠にはめられ、自殺を試みたとき、夢の中の白鳥が止めに入り、彼らと一緒に踊って生を謳歌することで、希望を取り戻す。この後、古典における黒鳥オディールに代わって、ザ・ストレンジャーという男性が宮廷に現れたり、王子と主役のザ・スワン(男性)の同性愛的な哀しい愛の行方であったり。
男性の白鳥は、古典の優美さやはかなさではなく、白鳥本来のもつ野性的で攻撃的な、動物的な強い美しさがあり、それは古典の女性による白鳥に匹敵する美しさ。ミュージカルの国ということで、セリフや歌はもちろんないけど、ミュージカルの世界観を照明により表現し、特に第3幕の、人物の影で表現する病室のようなシーンでの、ナースのような女性は全員同じマスクをかぶり、舞台前方より当てる照明によって、それが精神に異常をきたした世界を表現しているような、虚無と絶望の空間を生みだしたり。とにかく、ダンスが素晴らしい。ミュージカルに近い作品は、ダンスが重い印象を与えたり、体型がバレエダンサーに比べると太めであったりと、色々な欠点が見える場合があるのですが、それが全くない。ダンサー一人ひとりの完成度の高さと、演技力、表現力の高さ。そこにいるのはダンサーではなく、その世界を生きている人々と言う感じで、くささや嘘っぽいところがまるでありません。衣裳の美しさは言うまでもないというくらい見ていて楽しかったです。ダンスの高い完成度と、舞台としての演出の斬新さで、最後はスタンディング・オベーションでした。
チャイコフスキーの音楽は、とにかくどんなに王道と言われようが、大好き。アクロバティック「白鳥の湖」もとっても素晴らしかった。あんなに、劇的に空間をつかむ音楽はないような気がします。舞台と言う空間が、一つの別世界になり、この瞬間私は、その世界の住民になる。その時に音楽の果たす役割は、とてつもなく大きく、あのどこまでも盛り上がりドラマティックな音楽は、舞台と相まって、思い出すだけで胸がドキドキします。
初演は1996年ということで、もう15年前の作品。その時の主演アダム・クーパーや、日本人の首藤康之などこの舞台から世界的なダンサーが生まれています。鬼才演出家マシュー・ボーンの作品の中で、一番好きな作品です。