2012年1月31日~2月9日まで東京文化会館で行われた、ボリショイバレエの日本公演。今回は、ボリショイの十八番とも言える「スパルタクス」そして、「ライモンダ」「白鳥の湖」が上演されました。
私はその中で、2月7日・2月8日の「ライモンダ」と、2月9日の「白鳥の湖」を見てきました。
「ライモンダ」は全幕で踊られる機会が少ない古典バレエの演目ということもあり、私自身はじめて観る作品なので特に楽しみだったのですが…。ある意味で言うと、なぜ全幕で踊られる機会が少ないのか納得という作品でした。
コール・ドも含め出演人数はかなり多く、舞台装置も大がかり、クラシックバレエらしい演劇性よりも踊りが中心の演目にもかかわらず、その肝心な踊りが何よりも地味…。リフトや個人の技を競うような回転があるわけでもなく、だからと言ってしみじみとした情感を感じさせるわけでもなく…。今回は2日間、鑑賞したのですが、出演者としては7日は主役にボリショイの看板ダンサーである「マリーヤ・アレクサンドロワ」に期待したのですが。なんと、プリンシパルにも関わらず、特に難しくないリフトで相手役の「ルスラン・スクヴォルツォフ」とタイミングがあわずにリフトに失敗。その後は、コール・ドに乱れがあったり、コール・ドの一人がヘッド・パーツを落としてしまったり…と、天下のボリショイとも思えない内容…。一度、舞台に対する集中が途切れると、その後はなかなか舞台に入り込むことが出来ず、腑に落ちない出来に私自身は茫然…。
そんな中、敵役であったサラセンの騎士のアブデラフマン役である「ミハイル・ロブーヒン」の音楽をつかむ演技には脱帽。体が音楽で出来ているようなそんなリズム感。着地の瞬間、ポーズの瞬間の間と、ボリショイ劇場管弦楽団の演奏がバッチリと決まっていく快感は初めての経験でした。
同じ演目を2回見ての感想は、演じ手によって作り出す世界観が全く違うということ。マリーヤ・アレクサンドロワの「ライモンダ」は失敗はありましたが、それでもボリショイのスターとしてのカリスマ性、オーラが素晴らしく。そして解釈としては、ライモンダの婚約者の騎士であるジャンと、ライモンダに激しく求婚するサラセンの騎士のアブデラフマンとの三角関係のような、二人のタイプの違う男性に惹かれながらも、最終的には婚約者に落ち着く…という印象を受けました。
翌日の、「マリーヤ・アラシュ」のライモンダはというと。同じくボリショイのプリンシパルではありますが、おそらく日本での人気は、前日のマリーヤ・アレクサンドロワのほうが高く、それでも、繊細で丁寧、派手ではないけれど、誠実で真面目な印象を受けました。その印象は、役柄の解釈の中にも表れていて、彼女のライモンダの場合は、サラセンの騎士に惹かれるようなそぶりは全くなく、完全なる拒否!婚約者が現れると、そこに助けを求めるような安心した表情を一瞬だけ浮かべた演技で、一人の男性をどんなことがあっても一途に愛する純真で生真面目なライモンダという世界観をはっきりとあらわしました。
私自身は、失敗もなく完成度の高い舞台であった8日の公演のほうが好きでしたが、やはりファンが多いからでしょう。7日の「マリーヤ・アレクサンドロワ」の出演の日の方が、拍手は大きかったように感じました。